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2008.12.25 (Thu)

法科大学院の規模

法科大学院の定員について、合計4000人程度がいいのではないかとは私も以前書いたが、日弁連も同じ数字を出してきた。
NIKKEI NET(日経ネット):社会ニュース-内外の事件・事故や社会問題から話題のニュースまで
「法科大学院の定員4000人に削減を 日弁連が意見書
日弁連は24日、新司法試験合格率が想定を下回っている法科大学院の入学定員について「充実した少人数教育を実現するには(現在の全国計約5800人から)4000人程度に減少させることが考えられる」とする意見書を公表した。
意見書は「大規模校でも100人規模の削減」を求め、削減の指標として司法試験の合格実績を過度に考慮してはならないと主張。「(定員は)教育の機会均等の理念から、全国に適正配置されることが必要。地方の法科大学院の犠牲の上に削減が進められてはいけない」としている。」
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20081224STXKD038724122008.html
意見書本体はここ


ダークな試算をしてみた。

現状の定員5825人を4000人にするとすると、74校に均等割りすれば24.7…一校当たり約25人の定員削減となる。
08年4月の時点で最も小規模なLSは定員30人なので25人削減だとインパクトが足りないので(*1)、一律30人削減することにする(*2)

現行定員30人の機関から定員30人を削減すると定員が0になるのだが、該当は9校。
これを、本年度(2008年度)の新司法試験の結果に当て嵌めると、該当校出身の合格者(≒かかる定員削減が行われた場合、新司に合格すべきなのにLS教育を受けられないであろう者)は(全2065人の合格者中)32人(約1.55%)となる(*3)

しかしこの計算はちょっとフェアではない。他の(=定員31人以上の)LSへのインパクトを十分に評価していない。そこで
  1. 08年司法試験の実受験者数をベースに(*4)
  2. 定員削減分を新司不合格者が優先して吸収するものとする。つまり
    1. 不合格者数が定員削減分以上の場合には、0
    2. 受験者数が定員削減分よりも少ない場合には、全合格者数を計上する
    3. 定員削減分を不合格者で吸収できなかった場合、吸収できなかった人数を計上する
    定員削減が行われた場合、適性・能力の向かない順にLSに入学できないだろうと想定するわけで、そんなに変な想定でもあるまい。
これに該当する者の数は、合計73人(約3.5%)(*5)
ちなみに1校当たり定員25人削減として同様の計算をすると、合計41人(約1.9%)(*6)


日経(*7)の記事では「大規模校でも」削減としているが、意見書では「大都市の大規模校において」100名規模の大幅な定員削減(4頁)としており、この記事の書き方はちょっと。
「大規模校ほど責任を果たす」として、総定員の削減数を現行の定員に比例配分するとする。現行定員30人の機関で9人の定員削減(*8)、以下同様に50人校で16人、100人校で31人、最大規模の300人校(*9)で94人の定員削減となる(*10)
これに対して前段と同様の計算を行うと、インパクトを受ける人数は合計6名のみ(*11)


意見書は、司法試験の合格者数を基準とする定員削減は「もともと大規模校に有利な」要素だから 定員削減は進まないだろうとする。
卒業生数=受験者数が増えれば合格者数が増えるのは当然だが、それでは合格についてはどうか。新司法試験の結果について、「大規模校ほど責任がある」といえるだろうか。
LS別の08年度新司法試験の合格率(*12)と実受験者数との相関係数を計算すると、+0.608。
LS別の合格率と学生定員との相関係数を計算すると、+0.585。
散布図はこんな感じ:
08新司LS別結果・散布図 (*13)

2006~08年の新司法試験結果を通算してみると、LS別合格率と(のべ)実受験者数との相関係数は、+0.639。
同じくLS別合格率とこの間の学生定員から予定される卒業生数(*14)との相関係数は、+0.642。(*15)
散布図:
06-08新司LS別結果・散布図

LSの規模と新司の結果との間には因果もあるかも知れない。例えば、「受験仲間が多いほど情報交換や勉強会がスムーズにいったりモティベーションを相互に高め合ったりできる」の如く。しかし本エントリではあくまでも相関しか見ていないのには注意。

さて、本当に「大規模校の責任」なのであろうか。
LS教員(及びそれに引き摺られた法学部教員)の不足(*16)指摘されている(というか現場レベルではずっと昔からいわれてきたのがようやっと表に出てきた)わけで、そうするとLSの数が減らない調整はやっても意味がない。

本エントリで指摘した点を知って知らずか、意見書は「定員削減の指標として、司法試験の合格実績を過度に考慮することがあってはならない。指標とされるべきは、あくまでも教育内容のいかんであって、試験の結果はその表 れの1つであるに過ぎない」と書いているのだけれども…それを日弁連が言っちゃあマズい気が。もし試験がLSの「あくまでも教育内容」を適切に反映できないのだとすれば、反映できるような試験を設計すべきなはずで。(*17)
今、日弁連(を含む法曹関係者)に求められているのは、法曹としての適性・能力を明確に定義することではなかろうか。
一連の司法制度改革でそうした作業が皆無だったとはいわないが、極めて抽象的な“題目”"Kanoncanon"に留まっていたように思える。
そうではなくて、具体的に測定可能な程度までにbreak downした上で、その内のどれが試験によって測定可能なのか、どれが教育機関で教育可能なのか、そもそも「試験」や「教育」という回路に馴染むものなのか、選り分けていく作業が必要なように思われる(*18)。さもなければ、いつまで経っても試験によって何が測定されるべきなのか、法学教育によって何が訓練されるのか、定義されない。
逆に、司法試験によって法曹としての適性・能力--の少なくとも重要な部分--を測定できていると考えるのならば--日弁連は新司法試験についてそのように評価していると了解しているが--、法科大学院の定員調整においてもこれが主要な指標となるのはやむを得まい。

【関連】

分母と分子 - アメリカ法観察ノート
法律家の能力 - アメリカ法観察ノート
Faculty Presentation - アメリカ法観察ノート

【More・・・】

*1 定員5名というのはそれはそれで凄まじいエリート教育のような気もしないではないが。
*2 この場合、定員合計3605人となる。ちょっと削りすぎ?
*3 最大が中京大の8名、続いて熊本大7名。定員30人で合格者なしのLSはない。
*4 従って、前年度(まで)からの繰り越し受験者もいるから、学生定員とはズレがある。場合によっては一学年定員よりも多い受験者がいる場合もある。
*5 最大は愛知大の11人、続いて福岡大7人等。
*6 最大は愛知大・神戸学院大の6人。
*7 共同通信?確かに他紙にも同じ記事が掲載されているが、47NEWSでは確認できなかった。
*8 当然ながら定員0となる機関はない。
*9 中央大、東京大、早稲田大。
*10 端数を丸めると合計は(1825人ではなく)1829人の定員削減、総定員は(4000人ではなく)3996人となる。
*11 より正確には、全国で一校、神戸学院大のみである。
*12 ここでは「(最終合格者数)/(実受験者数)」で計算している。以下同じ。
*13 2種類のグラフを一枚に詰め込んでいる。すまぬ。
*14
  1. 06年度以降、新司受験者を輩出しているLSについては「(一学年の既習者数)+2×(一学年の全体定員)」
  2. 07年度以降、新司受験者を輩出しているLSについては「2×(一学年の全体定員)」
  3. 08年度から新司受験者を輩出しているLSについては「1×(一学年の全体定員)」
で算出している。
「一学年の既習者数」については
  1. Wセミナーの法科大学院入試関連情報の2009年度法科大学院入試情報のページで既習者・未習者の数が分かればその数字に基づく
  2. 各LSのWebページで分かればその数字に基づく。幅のある数字(「5~10名」等)の場合は平均値
  3. 各LSのWebページで「3年課程のみ」と明記されている場合は既習者数0で全定員が未習者とみなす
  4. 各LSのWebページで、既習者の数を含んだ過去の入試実績が公開されている場合、それを通算して一学年全体の定員に比例配分する
  5. それでも分からない=既習者課程を設けているのは確かだが、定員は明示されておらず、過去の入試実績も不明の場合は、一学年の全体定員の既習者と未習者に半々に均等割りする
当然、既習者数と未習者数の合計は一学年の全体定員となる。
本当は実際の入学者数や卒業者数を基礎とすべきなのかも知れないが、公表されていないことも多々あるし調べるの大変なのでこのくらいで許して(mOm) 在学中の旧司法試験合格とかも考え出したらキリがないし。
*15 ちなみに、既修者の数の分かるLS61校(*14のa.~d.)の、一学年定員(=既習者+未習者)に対する既習者の比率と、2006~08年通算の合格率との相関係数は、+0.623。既習者を多く取っているLS程、新司法試験には強い。
*16 もっとも、科目による。
*17この意見書--に限らず日弁連のLS-新司法試験関係の意見には、ある種の「受験勉強オブセッション」のようなものを読み取れなくもない。無論、こうした意見書を書いているのは(旧にせよ新にせよ。まだ旧のほうが多いであろうが)司法試験合格者なわけで、その自らの(overcomeした)体験を(overcomeしたにもかかわらず)ネガティヴなものとして評価している。
この点、90年代の「ゆとり」教育論議が(必ずしも実態の実証的検証を伴っていたとはいえない)「受験地獄」のイメージに引き摺られていたことと一脈通じるように思える。
*18 こうした作業に当たっては教育学の専門家との協働作業も必要だと思われるが、行われているのだろうか。
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