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2008.07.21 (Mon)

思い出の 事件を裁く 最高裁

そんな川柳があるが、裁判に時間がかかるのは日本の専売特許ではない。


エクソン社のタンカー・バルデス(Valdez)号がアラスカ沖合で座礁し、、大量の原油が流出した事故、原油に塗れた海鳥の映像は世界中に流され、その後も大規模環境破壊の象徴であった。
1989年、もう20年近く前になってしまった。直接に覚えているのも20代後半以降だろう。
アメリカ法では、典型的な大規模環境汚染事故として、数多くの論文で言及される、環境法、不法行為法のパラダイム事例でもある。
そんな事件が今開廷期、連邦最高裁に到達している。
Exxon Shipping Co. v. Baker, 128 S. Ct. 2605 (2008)
available at
http://www.supremecourtus.gov/opinions/07pdf/07-219.pdf.
大規模かつ長期間の紛争であるからlegal actions(*1)も錯綜している。その過程でエクソンは諸々の汚染除去費用、罰金・課徴金・和解金等を負担している。
差し当たって最高裁へ上がってきた争点は、漁民・先住民・土地所有者を原告とするクラス・アクションにおいて、被告エクソン側は懲罰的賠償を命じられることありうべしか、あり得るととして額はどうか。
トライアルで陪審に認定された填補賠償額は2億8700万ドル(*2)。これに対して懲罰的賠償は、船長個人に対して5000ドル、エクソン社に対して50億ドル(*3)

Alitoがエクソンの株式を保有していたことから審理に参加せず、8人の裁判官が4:4に分かれて最高裁の判断がなくして下級審の判断が確定する可能性があった。
結論についてはそのようなことはなく法廷意見が構成されたが、一部の論点について4:4に分かれた。
法廷意見はSouter執筆。

代位責任と懲罰的賠償

本件では、船長がアルコール依存症で、問題の事故の際も危険な海域であったにもかかわらず酔っ払って自室に引き籠もっていたことが特に問題視されたわけだが、それでは果たしてそうしたエージェント(代理人)の行為についてプリンシパル(本人)たるエクソン社は懲罰的賠償の責任を負うか。

この論点が最高裁の意見が構成されなかった部分であり、同数で分かれたので、下級審の結論をそのまま維持して=エクソン社はかかる責任を追うものとして検討を進めている。但し、この部分に判例としての先例性はない。

と書かれている法廷意見(の部分)に全員が同調しているので、果たしてどのような意見構成で4:4に分かれたのかは明らかでない。
「控訴審までの判断を維持」という補助線を引くと、そのような立場は後の論点で反対意見に回ったStevens、Ginsburg、Breyerだから、彼らが「エクソン社責任あり」に投票したと仮定。もう1票だから、それは多分書いた本人だろうと、Souterと推定して4:4。…いつものブロック分けで面白くない。

CWAと懲罰的賠償

次の論点は、水質汚濁を規制する連邦清浄水法(Clean Water Act)が、コモン・ロー上の懲罰的賠償を専占するか(*4)。最高裁の判断はCWAをそのように解釈できないというもので、この部分も全員一致。

懲罰的賠償の額

最後の論点が懲罰的賠償の額に対する規制の部分で、一番注目される所。そして5:3で意見が分かれた点でもある。
但し、裁判所のこの部分の判断は海事法に関する連邦裁判所のコモン・ロー権限に基づくものであって、これまで主に争われていた州不法行為法等に基づく懲罰的賠償に対して連邦憲法の立場から介入していくという事件類型とは異なる(*5)。もっとも、懲罰的賠償一般についての認識を示していると読める判示もあり、また部分的にはデュー・プロセスに基づく判例も参照しており、繊細な取り扱いが要求されるだろう(*6)。IV.A-Eは懲罰的賠償制度を歴史及び比較法を含めて概観しており、今後しばしば引用されることになるものと思われる…つーか、「お前はオレか」って感じのまとめ方(*7)なんですが(笑)

さて、この部分の判示のコアはIV.Fになってようやっと出てくる。
言語的定式化はダメだ、固定的な額の上限は定められないとした上で、填補賠償額を基準とするとする。
では填補賠償の何倍にするか。3倍という州がやや多いが、本件のような"worse than negligent but less than malicious"な事件にはうまく当てはまらない。
2倍…連邦や州の制定法でそのようなものが定められている場合とは大分異なる。
というわけで、陪審による懲罰的賠償の裁定の中央値が填補賠償額の0.65倍弱であるとの実証研究に依拠して、「このぐらいでいいよね」と1倍=填補賠償額と同額、でラインを引いた。

Stevens、Ginsburg、Breyerがそれぞれ反対意見を著している。形式上は相互に同調してはいないが、論旨は共通するものがある:
・確かに裁判所は海事法に関するコモン・ローを持っているかも知れないけど、そんな線引きは議会に任せたほうがいいんじゃね、というのと;
・1倍ルールは硬直的過ぎだろ。裁量の濫用さえチェックすれば十分だろ、という点。


「懲罰的賠償は填補賠償と同額まで」という、非常に明快なルールを宣明してみせた訳だが、とにかく「エイヤッ」と線を引くことが優先されて実質的な理由付けは弱いとも思われるし、
Damages Cut Against Exxon in Valdez Case - NYTimes.com
By ADAM LIPTAK
Published: June 26, 2008
"The decision may have broad implications for limits on punitive damages generally."
http://www.nytimes.com/2008/06/26/washington/26punitive.html?ex=1215316800&en=98d7a1adf73586ca&ei=5070&emc=eta1
果たしてこの判示が懲罰的賠償一般に広がっていくか、逆に言えば本件の射程はどの程度かは、かなり不安定、と読む。

射程を広い方向に読んでいけば、
  • 海事法一般
  • 連邦法上の懲罰的賠償一般
  • 連邦憲法のデュー・プロセス条項を経由して州法についても
とまで包含していく可能性があるが、逆に限定的に読んでいけば、海事事件でかつ
  • 代位責任の場合のみ。
  • 環境汚染事件のみ。衝突等、他の事件類型は含まない。
  • 故意がない等、非難可能性が高くない場合のみ。故意・重過失の場合は含まない。
  • 隠蔽工作等がない場合のみ。
  • 他にsubstantiveな額の刑事罰金・行政課徴金を支払っている場合のみ。
  • 填補賠償額が高額な場合のみ。(*8)
といった絞り込みをかけていく余地もある。
実際、法廷意見の判旨もそのように読める箇所がある。
"... [A]wards at the median or lower would roughly express jurors' sense of reasonable penalties in cases with no earmarks of exceptional blameworthiness within the punishable spectrum (cases like this one, without intentional or malicious conduct, and without behavior driven primarily by desire for gain, for example) and cases (again like this one) without the modest economic harm or odds of detection that have opened the door to higher awards...
... [A] 1:1 ratio ... is a fair upper limit in such maritime cases."
Exxon Shipping Co., at 40 (emphasis added).
他にも、本件の事案においてExxon側の行動が取り立ててblameworthyというほどではない、という事情が繰り返し摘示されてそれに依拠して判旨が組み立てられている。
「1倍」というのは一人歩きし易い数字だが、本件の事情の下においての線引きだとして、案外、事情判決的に読まれていく余地もあるのではなかろうか。

射程が不安定だろうと読むもう一つの根拠は、裁判官の意見の分かれ方。
Gore判決を中心とする懲罰的賠償の憲法的規制に関する一連の判例法とは、裁判官の意見の構成が異なり、入り組んでいる。
デュー・プロセス関連事件
規制積極 規制消極
本件 規制積極 Roberts(?)(*9)
Kennedy
Souter
Scalia
Thomas
規制消極 Stevens(*10)
Breyer
Stevens(*10)
Ginsburg
憲法的規制では消極派のScalia、Thomasが本件では法廷意見に同調し(*11)、積極派のBreyereが反対意見に回っている。
これは本件が海事事件=連邦コモン・ローの事件であることから来る。
このことも、射程は案外短いのではないか、という根拠。少なくとも、海事事件以外への影響は小さい、と読む。

【More・・・】

*1 狭義には「訴訟」だが、ここではもう少し広く「法的なアクション」と読んでよい。
*2 但し、和解や免除された額がここから差し引かれている。
*3 但し、控訴審で25億ドルに減額された。
*4 なお、この論点が適切に提示されていたかという手続上の論点もあるが、結論において肯定。
*5 See, e.g., Philip Morris USA v. Williams, 549 U.S. 346, 127 S. Ct. 1057 (2007); State Farm Mut. Auto. Ins. Co. v. Campbell, 538 U.S. 408, 123 S. Ct. 1513 (2003); BMW of N. Am., Inc. v. Gore, 517 U.S. 559, 116 S. Ct. 1589 (1996).
*6 もっとも、繊細な取り扱いが要求されるはずなのに乱暴に扱われて壊れる可能性もないではない。後述。
*7
  • IV.A…英国法での歴史と米国法への受容
  • IV.B…目的ないし正当化根拠
  • IV.C…州による規制。他のコモンロー諸国の状況
  • IV.D…米国実務の裁定額のサーベイ
  • IV.E…憲法的規制
*8 もっとも、海事事件で船を放り出すような場合は既に賠償額は高額になっている気もするが…
*9 RobertsはWilliams判決において特に意見を示さずに法廷意見に同調しているだけなので彼の態度は未だ明確でない、という意の「(?)」。
*10 Stevensは一連の判例法をリードした裁判官だが、最新のWilliams判決においては反対意見・規制消極側に投票した。これを彼の態度変更ととるか、態度は一貫していて事案への適用の問題に過ぎないと解するかは読み切れないので双方に名前を挙げた。が、彼のさらなる見解が表明される機会はもうないかも知れない。
*11 実際、憲法的規制の場合について留保する補足意見がある。
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テーマ : アメリカ合衆国 - ジャンル : 政治・経済

01:45  |  アメリカ法  |  TB(1)  |  CM(4)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

●責任制限制度と懲罰的損害賠償

こんにちは。初めて書き込みさせて頂きます。
H大院生のみなみけと申します。
いつもお世話になっております。

懲罰的損害賠償の話とは異なりますが、日米の船舶事故の処理の仕方の違いが面白いですね。
日本だと、油濁損害賠償保障法3条で、船主以外は原則として、損害賠償責任を問われないことになってますから、船長にまで責任が問われるというのはなかなか興味深いですね。
もちろん、同法同条4項但書の適用がありそうな事案でもあるので、一概に違うとも言えないですが・・・

あと、アメリカにおける油濁損害に関する責任制限制度を知らないのですが(とりあえず、33 USCS § 1321 を読んだものの長くて断念)、責任制限制度と懲罰的損害賠償の関係はどうなってるのか気になりましたが、本判決によればCWAが専占しないという形で、懲罰的損害賠償(債権?)は制限されないことになりそうですね。
そうすると、懲罰的損害賠償により、責任制限制度を若干弱体化させる方向に行くことになるのでしょうか。
みなみけ |  2008年07月23日(水) 16:22 |  URL |  【コメント編集】

●今日の5の2のほうが好き

> 海事責任制限と懲罰的賠償

私は懲罰的賠償のほうから見ていたのでこの論点は見落としていました。向こうでもあまり議論しているのを見ないのですが、これは単に私の調べ方の問題かも知れません。

ざっと見た感じ、46 U.S.C. §183(a)が該当条文のようです。
責任制限の対象になる債務は幅広くカバーされるようです。もっとも懲罰的賠償の付保可能性が論点になるくらいなので、責任制限の対象になるかも議論の対象かも知れません。
それから、同条を援用するには"privity or knowledge"のなきことが要求されるところ、環境汚染事案では裁判所は辛目に判断しているとのことです。
たぶん、ここら辺りがキーの論点になるものと思われます。

#昔受験生をやっていた頃、答練で「保険を付ける」という意味で「付保」と書いたら「?」と赤が入って戻ってきて、合格者も意外と知らないことが多いのだな、と思ったことがある(^^;
IZW134 |  2008年07月25日(金) 12:52 |  URL |  【コメント編集】

回答ありがとうございます。

本件でちょっと事案を複雑にしているのが、油濁損害であるということではないか、とも思ってます。
日本でもそうですが、油濁損害の場合、船舶油濁損害賠償保障法という形で、船主責任制限法の特別立法がなされており、また、条約も一般的な船主責任制限条約の他に油濁損害賠償の責任制限条約(アメリカは確か批准していないはず)という形で別個で扱われているので、先生がご指摘の46 U.S.C. §183(a)がそもそも適用されるか、という疑問が出て来てしまいます。

というのも、油濁損害の場合、33 U.S.C. § 1321(f)(1)-(3)による責任制限もあったので気になったわけです。
しかし、同項は合衆国政府との関係での責任制限なので、他の被害者との関係では一般条項である46 U.S.C. §183(a)が適用されるとすれば整合的に考えられるのかな、とは思っています。

ところで、
>同条を援用するには"privity or knowledge"のなきことが要求されるところ、環境汚染事案では裁判所は辛目に判断しているとのことです。

なるほど、ありがとうございます。


「保険を付ける」=「付保」って一般的かと思ってました・・・
保険約款でも付保割合とか、よく登場するので・・・
ただ、「保険を付ける」とか「保険をかける」というのが親切な表現かもしれませんね。
みなみけ |  2008年07月30日(水) 18:23 |  URL |  【コメント編集】

> 油濁損害

そう。そもそもこの事件をパラダイム事例として取り扱ってよいか、という問いがあるのですよね。
しかしあまりに有名になり過ぎてしまって文献で言及され、故に他の文献も言及せざるを得ず…という状況になってしまっています。

ストライクゾーンでない事例で制度自体をいじり出すと制度自体が歪むこともあるわけで。 >官製不況へw
IZW134 |  2008年08月02日(土) 07:10 |  URL |  【コメント編集】

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2010/09/24(金) 09:17:54 |  赭韆 

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