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2008.04.20 (Sun)

死刑:lethal injection

Baze v. Rees, 2008 U.S. LEXIS 3476 (Apr. 16, 2008)
available at http://www.supremecourtus.gov/opinions/07pdf/07-5439.pdf
アメリカにおける死刑執行方法の主流は薬物注射だが、その中でも主流の3種の薬物を使用した手法について、第8修正「残虐で異常な刑罰」に照らして争われた事件。
この事件及び同種の事件が裁判所へ継続していたため、裁判所が死刑の執行の停止を命じ、裁判所の命令がない場合でも州当局は執行を差し控えていたため、昨年秋よりアメリカは事実上の死刑執行停止状態にあったが、連邦最高裁の結論は7対2で合憲判断。これにより執行停止も解除される見通し。
口頭弁論の様子から予想されていた結論ではある(*1)

本件では、死刑それ自体の合憲性は争われていない。
また、本件被告人が有罪で死刑判断を受けたことも争われていない。
さらにはこの執行方法が適切に実行されれば死刑囚は苦痛もなく死亡するであろうことも争われていない。3種の薬物とは
  1. チオペンタール麻酔
  2. パンクロニウム:筋弛緩剤
  3. 塩化カリウム:心臓を止める
第1の薬物により麻酔状態となり、第2の薬物は筋肉を動かなくして余計な動きを妨げ、第3の薬物により心臓が停止する。
が、パンクロニウム、塩化カリウムは麻酔状態にないと激痛を伴う。特に、麻酔が効かないままパンクロニウムが作用すると、激痛が走っても身体を動かすことができない。本件で争われたのは、ケンタッキー州の死刑執行手続がこのように手順に誤りが生じる可能性を排除できているか、ということになる。

結論は7対2で合憲判断であり、反対意見の2名も積極的に違憲だと言っているわけではなく判断に十分な認定がなされていないから下級審に差し戻すべきだとするものであり、そのような結論だけを見れば安定的な合憲判断だとも言える。
しかし法廷意見は形成されておらず、3(相対多数意見、Roberts執筆、Kennedy、Alito同調)+1(Stevens執筆)+2(Thomas執筆、Scalia同調)+1(Breyer執筆)で7票。反対意見はGinsburg執筆(Souter同調)で、その他にAlitoの同意意見、Scaliaの結果同意意見(Thomas同調)がある。
そこで採用された判断基準も、
  1. 「深刻な害の実質的な/客観的に容認し得ない危険」があるか(相対多数意見)
  2. 苦痛を加えること自体を目的としているか(Scalia+Thomas)
  3. 「深刻で不要な苦痛の、untowardで容易に回避可能な危険」があるか(Breyer、Ginsburg+Souter)(*2)
と分かれてしまっている。何が判例法かを読み取るのは厄介だろう。
論点を狭く絞り込んだのはできるだけ多くの裁判官を取り込もうという、Rehnquistの弟子たるRobertsの訴訟指揮ではないかと推測するが(*3)が、失敗に終わったと言える(*4)
asahi.com:米最高裁、薬物注射の死刑は「合憲」 執行再開の可能性 - 国際
「判事の1人は、死刑制度そのものの存続について「正当化されるのか論議すべき時が来ている」と指摘する異例の個別意見書を出した。」
http://www.asahi.com/international/update/0417/TKY200804170079.html
薬物注射による死刑執行は合憲、米連邦最高裁が判断下す : 国際 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
「審理に加わった判事の1人は「死刑制度自体が憲法違反だ」との意見を示しており、国内で死刑制度の是非が改めて論議を呼ぶ可能性もある。」
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20080417-OYT1T00320.htm
(ちょっと書き方に引っかかる部分はあるが、)指摘の通り一番関心を引くのはStevensの結果同意意見だろう。18頁にわたって死刑についていろいろと書いているが、本件の判断に直接係わりのある判示は最後の1頁にも満たない1段落のみである。しかも、「いろいろ思うところはあるけど判例法がそうなっている以上、具体的基準が相対多数意見のものであれ反対意見のものであれ、合憲」と、それまでいろいろ書いていたことに照らすともうちょっと何かあっていいのではないかという書きっぷりである。
最近のStevensは同様に、直接判断に係わりのないことをいろいろと書くのが目立つ印象がある。隠居を視野に入れて(*5)言いたいことを今の内に言っておこうという感じがする。そのように考えるのは洋の東西を問わない。
そしてScalia結果同意意見は、もっぱらこのStevens結果同意意見に対する反論である。

Ginsburgが反対意見にまわる例も同様に目に付くのだが、彼女の場合、いろいろと思うところはあるだろうと想像するにもかかわらず、実際の反対内容は地味に事案の差異を指摘するパターンが多い気がする。

逆に、Alitoの投票行動も目を引く。
最高裁に入る前の下馬評は、"Scalito"とも言われるほど、“硬い”、原意主義的な判断態度が予想されたのだが、実際に蓋を開けてみるとScalia・Thomasグループとは必ずしも同調せず、むしろRobertsのminimalisticなアプローチに同調する例が多いように思える(*6)


今回の判断で、死刑に対して最も批判的だったのはStevens、Ginsburg、Souterと、最も辞めるのが早いだろうと予想されているメンバーである。
そうすると、前述の通り本件の判例法が何であるかを読み取るのは厄介だが、結論的には連邦最高裁レベルでの死刑の合憲性は当面安定的だろう。
注目されていた事件ではあるが、大山鳴動鼠一匹の感もないではない。
今後はしばらくは、NJネブラスカがそうであったように、)死刑制度については州の動きのほうが重要性を増すのだろう。

【関連】

第8修正シンポ - アメリカ発祥の地でアメリカ法を思考する
死刑:電気椅子 - アメリカ発祥の地でアメリカ法を思考する
NJ死刑廃止 - アメリカ発祥の地でアメリカ法を思考する
Roberts Courtの保守傾向 - アメリカ発祥の地でアメリカ法を思考する
Tribe v. Olson - アメリカ発祥の地でアメリカ法を思考する
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テーマ : アメリカ合衆国 - ジャンル : 政治・経済

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